アメリカの子供はどう英語を覚えるか [ホールド]
この本を手に取る人は、バイリンガルやマルチリンガル教育に興味のある人か古い例で言えばナチュラルメソッドやダイレクトメソッドのようなものに興味のあるのだろうか。
幼児の母語習得過程を参考に自分の外国語学習を効率化あるいはよりネイティブに近いものにしたいと考える人間に読まれるものと考えられる。
参考にはなるが、どちらかというと研究者のものであり、社会人からすれば例えば自分の専門分野に絞った英語をといった神田昌典の方法が良いだろう。
ということで、特にすすめない。
さて、この本を読んでいくと、母親はアメリカ人で父親は日本人なのだが、実はバイリンガル教育ということを特に意識していないのかとも思われる箇所がある。
それぞれの親の母国語のみを子どもに話しかけるというのがバイリンガル教育の定番のようだが、この本では日本人である父親も英語を使って子どもに話しかけることがあったと記述されている。後に日本語だけにしたようだが。これは単に父親の都合であり、日本語の方が楽だからといった理由のようだ。
p.152
最近では夫もまちがいを避けるために、日本語でジーナに話しかけるようにしているようです。
バイリンガル/マルチリンガル教育、言語と子育てに関しては、『ヒロシ、君に英語とスペイン語をあげるよ』や『バイリンガルを育てる―0歳からの英語教育』などがある。
観察では子ども(ジーナ)は固まりで覚えていると著者はいう。固まり、チャンクだ。
幼児が単語や言葉の意味を獲得することに関して、始めは大きく固まりから次第に細かくという感じになっていることを観察している。その過程で単語のイメージをつかんでいる。
固まりとして捉えるのは、日本の英語学習では熟語として覚えるのだが、そこから更に単語の意味となると通常は学習の範囲とはならず、訳語を幾つか覚えるという方向になる。意味ではなく訳語である。
この意味を追求しようとした動きとしては、西村喜久や田中茂範がいる。
これはいいのかも知れないが時間が掛かるだろう。社会人が短時間でビジネス上で英語を使うという場合は残念ながら省略されるものだ。長いスパンならこれは英語の感覚を身につけるにはいいかもしれない。
ここから学習していくと要素還元主義的になり、実用から離れてしまうということになる。意味を教えられてそこから覚えていくのか、自分で幾つもの例を聞きながらある単語のイメージを作っていくのか。英語の感覚を養うという意味では良いが、やはり忙しい現代人には難しい。
修飾被修飾の関係で順番はどうするのかというのでは、著者はこう答えている。
p.185
主観的な意見を先に出し、だんだんと本質に近づいて名詞にかけるように並べます。
例として、「日本の大企業」と「メキシコ製のきれいな赤いドレス」を挙げている。「日本の大企業」は日本、大、企業に分解でき、大は主観的なものであり先に来る。よって「large Japanese companies」となるという理屈だ。後者は、メキシコ製の、きれいな、赤い、ドレスに分けられるが、英語では「a pretty red Mexican dress」となる。prettyは主観というのは分かるが、「a pretty Mexican red dress」とならないのは、red に見えるか orange に見えるか人によって違うというのが理屈で、Mexicanの前に来る。
ただしこれをもって英語(西洋語)が客観的で日本語が主観的情緒的言語でといったものではないだろう。メディアでの操作は言語とは関係なく、どの言語に対しても普通に大人の観察力で対応すべきものだ。
結局は、間違えながら覚える。トライアンドエラーしかない。ただ、文法が全て同時に完成するわけではなく獲得に苦労するものがあるということだ。
発音に関しては殆ど載っていないが、LとRがあった。これは間違えるにも区別がつく人が間違えるのと区別がまだつかない人とでは違う。発音できても間違えるときがある場合は語学というよりも心理的なものだろう。
著者は一人で、本の写真を見ると80年代のヘアスタイルのような感じがするが、全て自身が日本語で書いたのだろうか。英語に慣れてしまえば多分間違えない表現だが、昼食をとるという表現を日本人は何故か take という動詞を使ってしまうと書いている。日本語を使ってそう言っていればそれほど苦もなく推測できると思うが。著者は普段日本語で何と言っているのだろうか。父親が子どもに英語で話しかけた場面があるということは家庭内では英語を使う頻度の方が高い可能性がある。
著者の米国人観察をした記述があった。
pp240-241
アメリカ人はものごとを大げさに言う傾向があります。
これは現地に行かなくても、平常心で観察すれば分かるだろう。アメリカ人ができると言うのと日本人ができると言うのを逆にするといいというような話もでるくらいだ。
日本人が間違えやすい英語の表現といったものはありがちだが、こういった試みはなかなか無い。ヒントはたくさんあり、こういったことを積み重ねればもっと面白いのだが、どうも起業したようで研究からは遠くなった。
⇒ アメリカの子供はどう英語を覚えるか
タグ:1993年 祥伝社黄金文庫 湯川笑子 試行錯誤 トライアンドエラー くろしお 草思社 ポリグロット バイリンガル トリリンガル トライリンガル 塩谷 田中茂範 コアイメージ アメリカの子供はどう英語を覚えるか 米語 語学本 英語 1991年 2004年 はまの出版 祥伝社 シグリッド・H. 塩谷 習得過程 北村崇郎 基本語 Sigrid ヒロシ、君に英語とスペイン語をあげるよ バイリンガルを育てる 西村喜久 自然主義教授法 Natural Method ダイレクト· メソッド ダイレクトメソッド Direct Method 直接教授法 「これは何という?」 幼児の母語習得 Oral Method オーラル・メソッド NCR